ジョーンズ法
1920年に制定された米国の商船法を指し、米国国内間で海上輸送をする際は、米国で建造された米国籍船で、乗組員は75%以上が米国人でなければならないと定められているもの。(世界各国で国内産業保護や安全保障の観点からこの種の法が制定されておりこれをカボタージュと呼んでいる。)

これまでこの法律をめぐり、厳格な施行が、却って国内の各産業の競争力を削いでしまうという見地から、多くの議論や例外措置が講じられてきた事も事実である。

かかる中、過剰な保護規制が造船、観光業界を弱体化させる恐れがあった為、1998年米国議会は、ハワイ観光の為の新造客船に助成措置を講じ、外国で建造された船であっても米国籍船であれば、ハワイ諸島内の旅客輸送を認める修正法案を採択した。 ただし、この法案は、新たな米国籍の客船が2005年1月1日以前に引き渡される事が条件とされていたので、この期限がその後NCL AMERICAの各客船の就航時機に影響してくる事となる。

M/V “PRIDE OF AMRICA”
本船は米国政府の補助の下、ミシシッピ州のLitton Ingalls造船所でUS LINEにより発注、起工された。US LINEはコンテナー定期航路を多数運営する米国を代表する海運会社であったが、コンテナー船不況で本船を建造中の2001年に倒産。 その為本船はNCLに買われドイツのLloyd Werft造船所で工事を続ける事になる。

この間全長が850feet(260m)から920feet(280m)に、総トン数も72,000トンから81,000トンへと設計が変更された。この船が、ややトップヘビーで、全長に比べ不釣合いに長い上部構造を持つのは、この時の設計変更によるものと思われる。 しかし再びドイツで建造中、今度は造船所が嵐に合い、本船は一部が半沈没するなど多大の被害を受け、就航が2005年半ばにずれ込んでしまう事態になった。

合衆国以外の造船所で建造した船を米国籍に転用できるジョーンズ法特例措置の有効期限は2005年1月1日であったので、NCL AMERICAは本船に代わって、急遽グループのNORWEIGIAN SKYを改装工事の上,米国籍の PRIDE OF ALOHAと改名して2004年にハワイ航路に投入。その結果PRIDE OF AMERICAは、ハワイ航路の第2番船として就航する事となった。

なおPRIDE OF AMERICAは、US LINEがかつて所有して大西洋横断航路ブルーリボンに輝いたS/S “UNITED STATES”以来の米国籍船(厳密にはPRIDE OF HAWAIIに先を越されたが)である為、NCLは本船に因んで、フィラデルフィアで繋留中だった"UNITED STATES"のレストアー事業を開始し、基金を募っている。

NCL AMERICA
マレーシアの首都クアラルンプールから車で、約1時間半ほどの処にGENTIN(ゲンティンまたはジェンティンとも呼ぶ)高原というリゾート地がある。ホテル、カジノ、ゴルフ場、スパなどが一体となったここは、海抜1,700m。熱帯地域のマレーシアで、冷涼な高原リゾートは、現地人にも観光客にもとても人気がある。

このゲンティン高原は、第2次大戦後にLim Goh Tonという華僑によって開発され発展してきた。マハティールら歴代のマレーシア首相の知己を得て、事業を拡大してきたリム・ゴ・トンは今や世界でも屈指の富豪と呼ばれている。リムは、1993年香港を拠点にアジアでの本格的クルーズの先駆けとなるSTAR CRUISESを立ち上げたが、いまやそのスタークルーズは、世界でもトップクラスのクルーズ会社に成長したのは、良く知られるところだ。

一方のNORWEGIAN CRUISE LINE は、1966年フロリダで設立、小型客船からビジネスをスタートさせたが、海空一体の低料金チケット、現在もNCLの「売り」の一つとなっているフリースタイルクルーズなど斬新なアイデアで事業を伸ばした。

2000年NCLはスタークルーズの傘下に入り、NCL AMERICAを設立、米国籍の新造客船としては約50年ぶりとなるPRIDE OF AMERICAをハワイ諸島クルーズに投入する一方、NCL本体はスタークルーズから「STAR LEO」を「NORWEGEAN SPIRIT」と改名し、カリブ海クルーズに投入している。逆に、香港にNCLの「NORWEGIAN WIND」を「STAR AQUARIUS」として就航させている。NCL本体は2009年以降15万トンのメガクルーザー投入計画も進行中の模様。

Lim Goh Tonの後を継いだTan Sri LikはUNITED STATES号がレストアーされた暁には、ハワイ航路に復帰させる事を考えていると云う。

こちらは同じ大西洋横断ライナーUS LINE「S/Sアメリカ」の模型。「プライド・オブ・アメリカ」の「S/Sアメリカ・ライブラリー」に飾られていました。